海外メガファーマのAIネイティブな人材育成への取り組み

前回の記事では、グローバル製薬企業のAIへの姿勢の例として、米国ファイザー社の取り組みであるAIに精通した組織(AI-Fluent Organization)への転換についてご紹介いたしました。
今回も、その他の海外製薬企業も含め人材や組織関連に対するAI推進状況についてまとめてみます。すでにこれらの企業では、AI活用が個別の業務効率化から、研究開発、製造、営業、コーポレート業務を含む全社的な変革へと広がっています。
Pfizer
Pfizer AI Academyなどを通じ、全社員のAIリテラシー向上に取り組んでいます。アルバート・ブーラCEOによると、Pfizer社では現在1849年以降の177年分の試験・実験データの構造化を行っており、過去の失敗も含めた膨大なデータが同社の強みだそうです。また、Pfizer社での組織としてのAI活用の特徴は、AIに関する知見を中央組織に集約せず、実験や製造ラインなど実際に業務を行う各部門が主体となって進める「federated model(分散型モデル)」を採用していることです。
参考:How Pfizer Thinks About AI (https://www.pfizer.com/news/articles/how_pfizer_thinks_about_ai)
AstraZeneca
AstraZeneca社は、全社的なAI変革を進めるため「Enterprise AI Unit」を設置しています。対象は研究開発だけでなく、マーケティング、事業運営、コーポレート部門まで含むバリューチェーン全体です。同社は2030年に向け、AIによる単なる効率改善ではなく、「end-to-end process reimagination」つまり業務プロセスそのものの再設計を目指しています。全社員のAIスキル向上も重要な施策としています。
参考:Enterprise AI at AstraZeneca (https://careers.astrazeneca.com/enterpriseai)
Novartis
Novartis社は、AIを意思決定を支援し業務を強化するツールと捉え、AIを活用して仕事をするうえでの支援を従業員に行っています。具体的には、全社的に進めている「Ready for AI」プログラムでAIツールやそれを活用するスキル、AIエージェントについて学んだり「Development AI Academy」によって臨床開発部門など、特定の業務でのAI活用を推進するプログラムを提供しています。
参考:Q1 2026 Impact and Sustainability Update to Investors (https://www.novartis.com/sites/novartis_com/files/novartis-q1-2026-impact-and-sustainability-update.pdf)
Sanofi
Sanofi社も早期研究から製造販売まで開発サイクルの全体にAIを適用しており、新薬を患者に届けるまでの期間を最大1年間削減することを目指しています。また、上市する製品の数を3倍に増やすことも目標としています。その一つの例として、文献スクリーニングにAIを活用しており、レビュー時間を大幅に削減する一方で95%の精度を確保しています。
参考:VivaTech 2026: Scaling Artificial Intelligence in Healthcare to Deliver Faster for Patients (https://www.sanofi.com/en/magazine/ai-in-healthcare/viva-tech-2026)
A New Era of Biopharma Production with AI
(https://www.sanofi.com/en/magazine/ai-in-healthcare/a-new-era-of-biopharma-production-with-ai)
Merck(MSD)
Merck社はGoogle Cloudと提携し、Gemini Enterpriseを使用したエージェンティックAIや生成AIシステムを全社的に展開しています。対象は研究開発、製造、マーケティング、コーポレート部門まで含まれており、全世界75,000人の従業員の生産性を向上させ、業務プロセスそのものを再構築することでより早く患者に治療を届けることを目指しています。
参考:Merck and Google Cloud Partner to Accelerate Agentic AI Enterprise Transformation (https://www.merck.com/news/merck-and-google-cloud-partner-to-accelerate-agentic-ai-enterprise-transformation/)
今回は、海外メガファーマのAIを使用した組織変革への取り組みついて概要をまとめました。これらの企業のうち、Pfizer社はCEOのアルバート・ブーラ氏が率先してAIの重要性と組織としてのAI活用について発信し、よりAIを活用した組織とオペレーションの改革に積極的なように思えます。この企業トップのAIへの意気込みの違いが、数年後に結果となって表れてくるのかもしれません。
