生成AIを使用して翻訳をする際に翻訳精度を向上させる方法

近年、生成AIを使用して翻訳を行うことが様々な分野で一般的になっているようです。生成AIはプロンプトを入力して細かい指示ができるため、従来のGoogle翻訳やDeepLなどのニューラル機械翻訳よりも使い勝手がいいと感じる方も多いようです。

一方で、生成AIを使用した翻訳の訳文は一見流暢に見えるものの、細かい部分に間違いが含まれていたり、用語の選択が適切でなかったりすることがあります。そこで、今回は生成AIを使用して翻訳を行う際に、出力を改善する方法とそのための基本的な考え方をご紹介いたします。

MTユーザーガイドに従った翻訳の品質評価

アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)ではMT(Machine Translation:機械翻訳)を使用して翻訳を行うユーザー向けにMTユーザーガイドを発行しています。このガイドによると、MTによる翻訳の品質評価には以下の4つの要素があります。

①用語(特定の分野、業界、企業で使用されている専門用語など)

②スタイル(である調・ですます調の指示や特定分野のスタイルに従っているかなど)

③正確さ(原文の情報・意味が過不足なく訳文に含まれているか)

④流暢さ(訳文の言語として自然な文になっているか)

※参考:MTユーザーガイド アジア太平洋機械翻訳協会

生成AIを使用した翻訳の出力を向上させるポイント

生成AIを使用して翻訳する際は、上記の4つの要素を考慮したうえで、さらに以下の3点を意識して生成AIにプロンプトを入力したり資料を添付することで翻訳結果が改善し、また翻訳結果のレビューもしやすくなります。

生成AIを使用した翻訳を改善するポイント

(1) 参照資料を与える(用語集・スタイルガイド)

(2) 生成AIによる翻訳で発生しやすいミスを理解する

(3) 翻訳の訳文の正確性と流暢性にはトレードオフがあることを理解する

まず、(1)では翻訳する文書で使用する用語集とスタイルガイドを添付して生成AIに指示をします。例えば、日本語・英語の単語が対訳となっているExcel資料や、「常体(である調)で翻訳する」などの指示や送り仮名の付け方などをWordファイルに箇条書きにするとよいでしょう。これにより、上記のMTユーザーガイドの品質要素の①と②をカバーすることができます。

生成AIに指示をする際は、この「用語集」と「スタイルガイド」の2つのファイルを添付することで、AIはある程度その内容に沿って翻訳をするようになります。ここでのポイントは、用語集もスタイルガイドも、あまり項目を増やしたり、ページ数を増やしすぎずに、まず必要最低限の項目のみ添付資料に含めることが大切です。これは、参照資料をあまり複雑にすると、生成AIが参照する際に注意が分散され抜けが発生し、結局はすべてを出力に反映できなくなるためです。

次に、生成AIが翻訳をする際に起こしやすいミスを事前に理解しておくことも重要です。まず、生成AI以前の従来のニューラル機械翻訳では、起こしやすい間違いとして以下のものがありました。

機械翻訳で発生しやすいミス

・訳抜け

・原文にない言葉の追加

・数字のミス

・適切でない用語

・否定・肯定の意味の取り違え

・係り受け(主語と述語、修飾語と被修飾語の関係)の間違い

この中で、個人的な印象としては「訳抜け」と「用語」のミスは生成AIによる翻訳でも変わらず発生しているように思います。特に、技術文書など原文が専門的で複雑な場合、専門用語がうまく訳出できていなかったり、単語レベルでの訳抜けが発生しやすいように感じます。これらの発生しやすいミスを事前に知っておくことで、効率的に精度よくAI翻訳の出力を確認することができます。

最後は、「正確性」と「流暢性」のトレードオフの問題です。一般的に、ある言語から別の言語に翻訳する際、原文に忠実に情報を訳文に盛り込むと訳文としての自然さ・読みやすさは失われ、訳文の言語としての自然さ・読みやすさを重視すると原文の情報をある程度省略する必要性が高くなります。これは、様々な翻訳に関する論文でも報告されています。

例えば治験文書など、技術文書の翻訳では、情報としての正確さを重視して訳文の自然さはある程度目をつぶることがあります。一方で、マーケティング翻訳やクリエイティブな要素が必要な翻訳では、原文への忠実性よりも自然な文体が優先されることもあると思います。

生成AIを使用して翻訳する場合、一度に流暢な訳文を生成しようとすると、訳抜けが発生しやすくなります。そのため、プロンプトの指示でまず原文に忠実な訳文を作成させ、それに基づいて人間や生成AIが修正して流暢性を改善する2段階の翻訳をすることで訳抜けを防止したり、その確認ができるようになります。

生成AIによる翻訳では、人間による適切なプロセス設計やレビューが重要

生成AIの出力の精度は年々向上しているものの、汎用的に使用されている既成の生成AIの場合は、特定分野の専門的な翻訳に使用するには不十分な場合も多いです。生成AIは一見非常に流暢に訳文を出力することができるため、細かいミスが発見しにくくなっています。そのため、業務で使用する際には注意が必要です。

今後も生成AIの能力は向上していくものと思われます。それでも、人間による業務プロセスの設計や生成AIの出力のレビューは、AIをうまく活用して業務に組み込んでいくために重要です。