治験文書メディカルライティングに重要となるデータの構造化

最近、薬事申請文書のメディカルライティングにかかわる記事や論文を読んでいると、「データの構造化」についての記載が増えていると感じます。データの構造化は、よくプログラミングやソフトウェア開発の文脈で出てくるものです。今回の記事では、この「データの構造化」について、治験文書メディカルライティングの文脈でご紹介します。

データの構造化とは

データの構造化とは、数値や日付、短いテキストなどをExcelやデータベースのような行と列の形式で整理することです。データを構造化することで、情報の集計・解析がしやすくなったり、コンピュータが情報を検索したり読み取ることが容易になります。

一方、例えば従来の治験実施計画書などは50~100ページ程度のWordファイルまたはPDFとなっており、こちらはデータ構造が事前に定義されていない非構造化ファイルです。ほかにも、一般的に画像、動画、音声ファイルなどは非構造化ファイルです。

構造化データの例をご紹介します。例えば文章で、以下のように記載するとします。

山田太郎さんは東京都に住んでいて、電話番号は090-1234-5678です。

これは人間には読めますが、コンピュータには扱いにくいです。上記の1文を構造化すると、以下のようになります。

名前住所電話番号
山田太郎東京都090-1234-5678

さらに、Jsonデータ※形式では以下のようになります。

{
  "name": "山田太郎",
  "address": "東京都",
  "phone": "090-1234-5678"
}

※Jsonデータ:Web APIなどで使用されるテキストベースのデータ交換フォーマット。データを「キー」と「値」のセット(例:"name": "山田太郎")で表現する。

同様に、臨床試験に関連する例として、米国臨床試験サイトのClinicalTrials.govには海外の臨床試験情報が掲載されています。そしてこの登録情報は構造化されています。以下は、適格基準の構造化データの例です。

{
"eligibility": {
"minimum_age": 18,
"maximum_age": 75,
"condition": "non-small cell lung cancer",
"disease_stage": "advanced",
"ecog_performance_status": [0, 1]
}
}

※上記の構造化データの例は、あくまで参考としてください。

構造化データで登録されるICH-M11電子化プロトコル

医薬品開発文書におけるデータの構造化の一つの例として、ICH-M11「電子的に構造化・調和された臨床試験実施計画書(CeSHarP: Clinical Electronic Structured Harmonised Protocol)」が挙げられます。

従来の治験実施計画書は、WordまたはPDFフォーマットで数十~100ページほどのまとまった文書ファイルとして保存・管理されていました。このWord・PDFで一つの文書として保存する形式は、人間は読みやすいのですが、コンピュータが内容を検索・分析したり、再利用する際にはデータが非構造であることから効率的ではありませんでした。また、業界全体で標準化されたフォーマットが無いため、規制当局が評価・レビューをする際にも非効率でした。

この問題を解決するために提案されているのがICH M11の電子プロトコルです。これは、治験実施計画書の情報を、目的、評価項目、適格基準などの要素に分け、電子的に構造化・標準化する仕組みです。例えば「TRIAL OBJECTIVES(治験目的)」は第3章に記載され、その中に主要目的や対象集団などの情報がデータとして登録されます。これにより、人間だけでなくコンピュータのシステムも必要な情報に直接アクセスできます。結果として、EDCシステムと情報をつないだり、治験総括報告書(Clinical Study Report: CSR)に試験デザインを転記する際に発生する誤記などのミスが削減できるようになります。さらに、登録された試験の情報は、他の試験でも検索・再利用できるようになるため、治験実施の全体的なプロセスにおける大幅なるデジタルトランスフォーメーション(DX)が期待されています。

AI活用の前提となる構造化データ

近年、医薬品開発や臨床試験の実施においてAIの活用による効率化・高精度化が進められています。ICH M11で治験実施計画書が電子化され内容が構造化データとして利用できるようになると、生成 AI を使用して複数の試験をまとめて比較したり、より効果的な試験デザインの提案ができるようになる可能性があります。

また、以下のブログ記事では、米国Pfizer社が同社の過去177年分の実験や臨床試験のデータを構造化していることが述べられています。

How Pfizer Thinks About AI (https://www.pfizer.com/news/articles/how_pfizer_thinks_about_ai)

保有するデータをすべて構造化することで、過去の実験や治験で得られた結果・知見をAIを使用して再利用できるようになります。そのため、データの構造化はAIを使用した業務改善の基盤となります。

また、以下の米国製薬会社複数社によるCSRの効率的な執筆に関する論文でも、報告書の内容が構造化されていることがAI活用の基礎となることを報告しています。データを構造化して保管しておくことで、明瞭で簡潔なCSR作成の自動化が可能になることと、非構造化データに比べて、より少ないデータでAIのトレーニングが可能になることが述べられています。

Optimizing Clinical Study Report Development Through Lean Authoring: A Framework for Meeting Regulatory Expectations and Preparing for Automation(https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13526120/)

今回は、AIを活用して医薬品開発文書を執筆する際に重要となる「データの構造化」について説明しました。AIに関するニュースは変化が速く、次々と新しいAI製品やシステムが登場しています。しかし、最新AIシステムの機能を追いかけることよりも、まず自社データの構造化をしっかり行っておくことががメディカルライティング業務の効率化のポイントになるものと考えています。